悪者につかまり、息子の前で嬲られる母…いつも毅然とした母がマンコの臭いをバカにされ脱衣をさりげなく手伝う姿に、息子の僕たちは屈辱と興奮を感じた(その2)


 

 

が二階に上がろうとした時、電話が鳴った。
 
「ちょっと春樹、あんた出てよ」台所にいる母は手が放せないらしく、一度、階段を上りかけた僕は、引き返してリビングの電話に出た。
 

 
その電話は最初、無言だった。
 
「もしもし、あの、どちら様ですか」
「、、、おまえ、息子か」低くおさえた男の声がした。
 

 
――なんだよ、こいつ、いきなりそんな事を言ってきた相手に、僕はムッとした。

 

悪者につかまり、息子の前で嬲られる母…いつも毅然とした母がマンコの臭いをバカにされ脱衣をさりげなく手伝う姿に、息子の僕たちは屈辱と興奮を感じた(その2)【イメージ画像1】

 
 
 
でも、日頃から、電話の応対だけはきちんとするようにと、母から厳しく言われている僕は、我慢して受話器をにぎり直した。
 

 
「あの、どちら様ですか」
「、、おまえ、上か、下か、どっちだ」
「えっ、、あのう、長男ですけど、、」
「お袋さん、いるか」なんて奴だと思いながらも、僕は母を呼んだ。
 
相手がどんなに非礼な奴であっても、母へかかってきた電話を、僕が勝手に切るわけにもいかなかった。
 

 
僕はムッとしたまま、突き出すようにして、母へ受話器を渡した。
 
「もしもし、お電話かわりました、杉浦でございます」母は相手にそう言ったあと、横に立つ僕を見て、なぜか嬉しそうに笑った。
 

 

「切れたわ、、でも夕方かかってきたのは初めてね、ねえ春樹、あんた声聞いたんでしょ、ねえ、どんな声だった」母が言うには、今年なって何度か無言電話があったそうだ。
 
でもそれは、決まって昼過ぎで、夕方かかってきたのは今日が初めてだと言った。
 

 
僕が、下品なオッサンみたいだったと告げると、母はいかにも残念そうな顔をした。
 
「あら、若い子じゃなかったのね、ちょっとがっかりしたわ」母は何事もなかったように、台所へ戻っていった。
 

 
僕はあきれてしまった。

 

悪者につかまり、息子の前で嬲られる母…いつも毅然とした母がマンコの臭いをバカにされ脱衣をさりげなく手伝う姿に、息子の僕たちは屈辱と興奮を感じた(その2)【イメージ画像2】

 
 
 
普通、こういう時はもっと心配したり、怯えたりするのが当り前なのに、僕の母は、むしろそれを楽しんでいるように思えた。
 

 
危機感というものがまったくない、能天気な母に、僕は心底あきれた。
 
気楽な母を見ていると、つかのま僕も和んだ気持ちになったけれど、でも、あらためてその電話を思い出すと、僕はやっぱり不安になった。
 

 
男の声は、感情の波をまったく感じさせない、不気味なものだった。
 
――それに、あの写真、もし、電話の男があの写真に関わっているのなら、そう思うと、僕は一層不安になった。
 

 

たちの家族構成まで知っている男が、少なくとも一度はうちに来て、意図が不明の封筒を郵便受けに押し込んだ。
 
自分の姿は見せないで、母をレンズから覗く中年男。
 

 
やはり僕には、母の声だけを聞いてすぐに切ってしまう無言電話に、何か悪意があるとしか思えなかった。
 
新聞の社会面にある、いくつかの見出しが、僕の頭に浮かんだ。
 

 
晩ご飯の時間になって、僕が二階から下りてみると、父と弟はもう帰っていた。

 

秀才が集まることで有名な私立中学に通う弟を、僕はあまり好きではなかった。
 

 
まだ中一のくせに、妙に大人びたところのある弟を、僕は疎ましく思っていた。
 
――あれ、まただ、食卓の準備をする母は、服を着替えていた。
 

 
母は、料亭の女将さんが着るような和服に着替えていた。
 
――また始まったよ、去年の夏は、隣のお姉さんから浴衣を借りてきて、それを着た。
 

 

年齢にそぐわない桃色の浴衣を着て、母は楽しそうにはしゃいでいた。
 
たまに、僕の母はそんな事をして、僕たち家族を驚かせた。
 

 
でも、驚くのは僕と父だけで、弟はしっかり母のペースに合わせていた。
 
『お母さん、よく似合うよ、とっても綺麗だよ』とか言って母を喜ばせた。
 

 
そんなとき母は、『あら、秋雄はいい子ねえ』と、弟に頬ずりした。

 

僕はそういう二人から目をそらした。
 

 
そんなことを、ぬけぬけと言える弟が、僕は嫌いだった。
 
その日は、和服を着た母のことを、弟は『お母さま』と呼んでいた。
 

 
きっと母に強制されたのだろうけれど、弟は照れもしないで、母の調子に合わせていた。
 
―――――――――期末テストの初日が終って、昼過ぎに家へ帰った僕は、一人でラーメンを作った。
 

 

はもう、スーパーへ買い物に行って家にいなかった。
 
食べている途中、電話が鳴った。
 

 
写真を見つけた日から、一ヶ月ほど過ぎていたけれど、その間、新たな封筒を、郵便受けに見ることはなかった。
 
でも無言電話は何度か、かかってきたようだった。
 

 
先週、僕が尋ねると、『たまにね』と、母は気にもしていなかった。

 

ひょっとしたら、と思った通り、その電話は、やっぱり最初、無言だった。
 

 
僕がその電話を叩き切ってやろうした時、突然、「おまえのお袋さん、いい女だ」この前と同じ、抑揚のない、暗い声で男が言った。
 
気勢をそがれて、電話を切りそびれてしまった僕に、ふたたび男が言った。
 

 
「なんでおまえ、そこにいるんだ」
「テストなんだよっ、、」答えるつもりは無かったのに、つい、男につられて喋ってしまった。
 
たて続けに男は、「おまえ、お袋さんのこと好きか」と僕に聞いてきた。
 

 

――あたりまえだろっ怒鳴ってやろうかと思った瞬間、電話が切れた。
 
僕は、なんとも腹が立ってしょうがなかった。
 

 
本当は、僕が先に切るはずの電話を、相手に切られてしまった。
 
バカバカしいとは思っても、勝負に負けたような口惜しさは、いつまでも残った。
 

 
その口惜しさは、あの日の夜のことを蘇えらせた。

 

写真を見つけた日、母が和服を着たあの日。
 

 
晩ご飯のとき、母と弟は楽しそうだった。
 
いつものように、そんな二人を見ているだけの父も、楽しそうだった。
 

 
弟が『お母さま、僕、塾のテストで百点取りました』と言えば、『まあ、秋雄さん、なんてお利口さんなんでしょう』と、母は優雅に笑った。
 
そういう芝居じみたやり取りに、僕はついて行けなかった。
 

 

当は、一緒になって騒ぎたかったのに、僕にはできなかった。
 
なにか面白いことを口にしようとしても、頭の回転が鈍い僕には無理だった。
 

 
その夜も、僕は一人いじけてご飯を食べていた。
 
まだガキのくせに、弟の大人びた口ぶりが癪にさわった。
 

 
――もう、うるさい、僕は、あの写真と電話のことを父に告げた。

 

楽しい食卓に水を差すのを承知の上で、僕は父に言った。
 

 
父は、お酒に酔った顔を真赤にして、そのことを母に問いただした。
 
写真のことは当然としても、何度かあったはずの無言電話についても、父は初耳のようだった。
 

 
そのことで父は怒っていたけれど、でも、とても母を心配していた。
 
母が持ってきた写真を見ながら、『警察には連絡したのか、どうしてすぐに言わなかったんだ』と、怒っていた。
 

 

僕は食卓を白けさせてしまった。
 
弟が、僕を小ばかにしたような目で、ちらっと見た。
 

 
あいつの言いたいことは、分かっていた。
 
(間の悪い兄貴だぜ、今そんなこと言わなくてもいいだろ)僕はそんな弟が、大嫌いだった。
 

 
―――――――――期末テストの二日目、家に帰った僕は、買い物に行く母を見送ったあと、一人で昼食をとった。

 

僕の父は、写真の件を警察に届け出るべきだと強く言っていたけれど『そんな、大袈裟だわ』と嫌がる母に押し切られて、結局、警察には連絡していなかった。
 

 
その代り、用心のため、買い物に行く時間を早めるようにと、父は主張した。
 
父を安心させるためなのか、母はその言葉には従ったようだった。
 

 
それまでは夕方だった買い物の時間を、昼過ぎにずらしていた。
 
僕は、前日の電話を母に言わなかった。
 

 

とのやり取りで負けた自分を、間抜けな息子だと母に思われたくなかった。
 
それに、母のことを『いい女だ』と、男が言った電話の中身を、口にするのはなんだか気恥ずかしかった。
 

 
悪者と母
 

 

 

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