悠里はひどい虚脱感でしばらく放心状態だったが、のろのろと身体を起こして皺くちゃになったバスタオルを身体に巻くと浴室へ向かった。
開脚していた時間が長かったせいか足腰にもろくに力が入らず、階段を下りるのもよろける始末だ。
全身の汗や秘部の粘液を洗い流したかった事もあるが、何より熱いシャワーを浴びて少しでも気持ちを整理したかったのだ。
浴室へ入ってから何気なく洗濯籠に視線をやると白いパンティーが目に入って来た。
帰宅後に入浴した時、洗うのを忘れていた物だった。

ついでに洗ってしまおうと手に取った時、ひどい湿り気でひんやりしている事に気付いた。
(なんで?)いくらなんでもこれ程の湿り気は有り得ない、思わず匂いを嗅いでしまったが……あの匂いだった。
正確には『行為の後』の匂いだが、これは悠里自身の分泌液だけでは発するはずの無い匂いなのだ。
恐らくここで自慰に耽った悠吾がパンティーを使ったのだろう。
息子の精液を吸い込んだ自分の下着をみて呆然としながらも、粘液に汚れた下着を息子に見られてしまった羞恥に顔が赤く染まっていく思いだった。
いつからか分からないが悠吾は自分を女として見ていたのかもしれない、それが証拠に精液で汚れたパンティーがある。
ここで自慰に耽った後、思いが募って寝室へ来たのだろうと言う事は容易に想像がついた。
洗い忘れたパンティーが息子の行動の引き金を引いてしまったに違いないと。
そんな事を考えながらシャワーを浴びていると、欠落していた記憶が何となく蘇って来る気がした。
さっきも同じようにして膣からだらだらと溢れる粘液を洗い流したような覚えがあるのだ。

体調によっては粘液の分泌が多い日もあるが、それにしては多すぎるし、たった今、洗い流している粘液……膣内に射精された後で出てくる残渣のようなもの、そう言った質のものをさっきも洗い流したような気がするのだった。
不審を抱きながらも肝心な記憶が曖昧かつ断片的でミッシングリンクを埋めるには程遠かった。
全身に熱い湯を浴びている内に、霞がかかったような意識はハッキリして来て目は覚めていた。
忌むべきアルコールもかなり抜けているように感じる。
どれほどの時間シャワーを浴びていたのだろうか、寝室へ戻るとすでに外は明るい。
あれほど望んでいた息子との肉の契り、それを交わした喜びと禁忌を犯した罪悪感との狭間で複雑な気分に揺れている悠里は、今後の取るべき道を模索していた。
秘め事の最中にあの子が言った『いつまでも強情なママを素直にしてあげる』とは、まさしく悪魔の囁きに他ならなかった……本当にそれがきっかけで極まりを告げてしまったような気がしてくるのだから恐ろしい。
恐らくあの子は自分を女として見ている、拒絶さえしなければ自然に母子関係とは全く別の愛情が生まれて来るだろう。
だが、やがてあの子も成長して相応の女性と愛し合うようになるはずだ。
そうなった時、まるで止まり木で羽を休めていた鳥が飛び立って行くように、やがて自分一人になってしまうのだ!……止まり木!?悠里はハッとしていた。
そうだ!あの子が相応しい女性とめぐり合うまでの、一時だけの止り木になる事で傷つくのは恐らく自分自身だけなのではないか……。
そもそも忌避な関係なのだから誰かが傷付くのは当然の事だが、愛する息子にその傷を背負わせる事だけは避けたい。
しかし、止まり木になる事でそれは可能であるように思えてしまったのだ。
そう納得する事で罪悪感を打ち消し、悠吾との関係を正当化する口実を見付け出したような気がしたのだった。
そうなると、今度は『出て行け』と言ってしまった事に後悔の念を禁じ得なかった。
悠吾にとってはそれこそ大それた事をした直後の叱責だったのだ。
今頃は部屋で落ち込んでいる事だろう。
大人ぶってはいても所詮は十五歳……まだまだ子供なのだ、下手をすれば部屋で泣き寝入りしているかもしれない。
そう思うと胸が痛んだ。
こんな事で頭を悩ませて受験に差し障りでもしたら、それこそ取り返しのつかない事になってしまう。
それは何としても避けなければならなかった。
本来の機能を全て取り戻すにはまだ時間がかかりそうな思考の中で一つの可能性を見出していた。
『酔っていたから覚えていない』と言う事にしてしまってはどうだろうかと。
酒を飲むと記憶がいい加減になってしまう事は悠吾もよく知っている。
ならば今夜の出来事をまるっきり忘れてしまったフリをしておく事で、息子が抱いているであろう母への恐れ、行為への後悔、そう言ったネガティブな感情を全てとは言えないまでも取り除くことが出来るのではないか……と言う可能性だった。
悠里はそのまま寝る事もせず、いつも通りの時間に朝食の用意をすると、いつも通りの優しい笑顔を作って息子の部屋へ向かった……そして、いつも通りの明るい声で悠吾を起こした。
「おはよう、お寝坊さん。朝ごはんの用意できてるわよ!」ガバッと起き出して狐にでもつままれたような表情で悠里を見つめる息子に言った。
「どうしたの?そんな顔して……ヘンな子ね」いつもの朝と全く同じ様子の母に悠吾は戸惑った。
あれほどの勢いで寝室から追い出されてしまったのだ、今朝は何がしかの批難、叱責、あるいは罵倒さえも覚悟していたが……いつも通りの優しい笑顔を見て安堵すると同時に緊張の糸が切れてしまったのか、悠吾は涙を浮かべて母を見つめている。
「ほらほら、ごはんが冷めちゃうわ。早く着替えてらっしゃい!」そう言い残して部屋を出て行く悠里の後姿もいつも通りに背筋がしゃんと伸びていた。
(一体どう言う事だろう?)安堵の次は疑問である。
あんな事があったのに何故いつも通りなんだろうと。
可能性として一番高いのが『酔ってたから覚えてない』と言う事だったが、あれほどの事を果たして覚えていない物なのだろうか、それほど酒と言うのは記憶に悪影響があるのだろうか、よく酒で記憶を無くす話しを聞いてはいても、経験の無い悠吾には理解できるハズも無く、何らかの方法で母に確認するしか無いと思えた。
着替えを済ませた悠吾は食卓のある一階へと降りて行った。
テーブルの上には、いつも通りに朝食が並んでいる。
そしてテレビにはいつも通りの口調でニュースの原稿を読み上げるアナウンサーが映っていた。
母には全くぎこちなさが感じられない、本当にいつも通りなのだ!悠吾が狸に化かされているような気分でテーブルに着くと、待ってましたと言わんばかりに悠里が言った。
「頂きま~す!」まったくいつも通りの光景だったので、つられるようにして悠吾も言ってしまった。
「い、頂きます」こうして二人の朝食が普段と同じように始まったのだ。
ただ、悠吾は少しそわそわしている様子でトーストが喉を通らず、ミルクで流し込むようにして食べているようだったが。
用意された朝食の半分ほどを食べた頃だろうか、少しだけぎこちない話し方で悠吾が口を開いた。
「ねぇママ、昨日の夜なんだけど……」「あら、なぁに?」「…………あの」どう切り出そうかと逡巡している息子の先手を取るように悠里が遮った。
ぎこちない話し方には気付かなかったフリをして普段と全く同じ口調で。
「あっ、もしかして……何か約束しちゃったのかしら?ごめんね悠ちゃん、酔っ払ったママの言うこと鵜呑みにしないでね。同窓会が終わってからの事、殆ど思い出せないのよ!」息子に口を挟む隙さえ与えぬようにして言い終えると、ぺろっと舌を出して肩をすくめ、首をほんの少し傾けた悠里の表情、仕草はいつも以上に可愛らしく見えた。
それこそ『ちょっと失敗しちゃった先輩』の様相なのである。
悠吾はまた胸の鼓動が早くなって行くのを感じていた。
(僕、ママの事すごく好きになっちゃったのかも)そんな風に母に対する感情が変わって来ると、物事の見え方も違って来る。
昨日まではべたべたと過剰なまでのスキンシップを疎ましく思っていたのだが、今なら恥ずかしくはあるが嬉しくもあり避けるほどの事ではないと思えた。
母と腕を組んで外を歩くのもたまには悪くないかもしれないと思えて来る。
一緒に買い物をするのだって、まるでデートみたいだとも思った。
悠吾は思い切って鎌をかけてみる事にした。
「今度の週末はプールに行くって一方的に約束させたクセに……じゃぁ、行かないよ!」たった今、でっち上げた『約束』を母はどうするだろうかと興味本位に見つめていると、これが本当に母親なのだろうかと思えるほど子供っぽい表情で悠里が言った。
「あ~~っ!?そんな約束したのっ?行くわよ行くっ!」これでは『先輩と言うより同級生』だと思えた。
「そうだっ、水着……新しいの買っちゃおうかしら!」すでに悠里の足は地に着いていない様子だ……本当に昨夜の事など無かったかのような食卓は、この事をきっかけにわいわいと明るい会話で終始したのだった。
朝食の後、テレビを見ていた悠吾は家の中が普段と変わらない事に安堵していた。
そして『あの出来事』を全く覚えていない様子の母は、いつも通りに明るく……いや、いつも以上に輝いて見えた。
少年が若く美しい母の中に女性を見出し、恋に落ちた瞬間だった。
ほどなくして出掛ける支度を整えた悠里が寝室から降りて来た。
「ねぇ、悠ちゃん……昨日の今日で悪いんだけど、ママ今夜も遅くなるかもしれないの」昨夜の出来事が脳裏を過ぎってドギマギする悠吾は精一杯の平静を装って言う。
「えっ、な、何で?」「あのね、職場で納涼会があってビアガーデンに行く事になってるのよ……ごめんね」そう言って悠吾の頭をくしゃくしゃと撫でた悠里は、昨日とは別のパンプスを履いて玄関を後にした……『だから、良い子にお留守番しててね♪』……そう言い残して。
母が女に見えたとき11121314
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