
(前回より続き)4ヶ月が平穏に過ぎた。
平穏が崩れだしたのは、彼女の行動がエスカレートし始めたためだった。
ある時、クルーノートに詩が書いてあった。
クルーノートとは、クルーが思いを書いたり、今日あった出来事を書いたり、色々書き込む雑記帳のようなもので、いつも机の上に置いてあり、全員が読むことができる。
その詩は、一ページを埋めており、まさしく俺達の結ばれた夜のことをデフォルメして書いてあった。
もちろん性行為の事までは書いていない。

が、あの夜が如何に素敵だったか、等々、詩の形をとって書き込んであった。
今でも思い出す。
詩の中の最後のあたりの一節「社会が無かったら、道徳が無かったら、私を縛る太いロープが無かったら貴方と一緒になれるのに・・・・」俺は、それを読んで背筋が寒くなった。
この詩はクルー仲間で話題になった。
「これを書いたの、誰だ?」ご丁寧に、筆跡鑑定を始めるやつがいる。
「Sさんじゃねーか?」「この部分、どういう意味だ?」正社員のMgrは、流石に大人で「人生色々あるんじゃないか?」俺も実はこの会話に加わっていた。
冷や汗を流しながらも、できるだけ自然に振る舞い、友の発言に相づちをうったりしていた。
俺は今まで彼女のことを聡明で、自分の安定を壊さない程度に人生を楽しむ術を見つけた女性だと思っていた。
だから、俺にとっても都合の良い彼女だった。
しかし、そうでなくなってきている。
彼女と2人きりになった時、彼女に俺は問いかけた。
「どうしてあんな詩を書いたんだ?」「さあ、なぜかしら」それから「ふふふ・・・」と笑った。
「皆、あれを見て、あることないこと詮索しているよ」「やらせておけばいいんじゃない?」話にならなかった。
俺は、誰もいない時を見計らって、あのページをびりびりと破り捨てた。
そういえば、兆しもあった。
彼女は、バイト先で俺に突然怒りだすこともあった。
他のクルーには相変わらず愛想がいいが、俺に冷たかったりする。
理由で思い当たる節はなかった。
俺のふとしたしぐさや、仕事の進め方、特に新人の教え方など、気にかかることがあると俺に突っかかってくるらしいというのは、後で分かったことだ。
俺は結構厳しいトレーナーだったし、仕事で甘えるのは嫌いだ。
技術というのは、厳しく教えられなければ身に付かない。
その厳しく接する姿が気にくわないと、怒りだすのだ。
が、それは彼女の職分を超えている。
事実、俺は店長にはほめられていた。
要は、彼女はバイト仲間としての一線を超え、俺に彼女が理想とする姿を演じて欲しくなったのだろう。
彼女は俺にひどく甘えてきたり、つっけんどんになったりと俺は彼女に振り回されるようになってきた。
またある時は、休憩室の流しの前の鏡に、俺の名前とハート、それを貫く矢が落書きされていた。
ご丁寧にボンドを使って描いてある。
俺の名だから、がりがりと引っかいて30分位かけて綺麗にした。
後で彼女に「こんな事があって、困ったよ」というと、彼女はクスクス笑い始めた。
俺が目で「君か?」と問い掛けると、彼女はあかんべーをした。
そして、俺に乗りかかってきて激しいキスをして、そのまま俺を抱きしめた。
それは、Mの休憩室の中だった。
俺は彼女を優しく離し、唇をぬぐった。
口紅が付いてしまっているはずだ。
彼女愛用の口紅の味が、俺の唇にこびりついていた。
彼女は36歳。
19歳で結婚し、20歳で出産していた。
目の前にいる、未だ独身と言われてもおかしくない彼女に、俺とそう違わない子供がいるなんて、不思議に思えた。
思わずまじまじと写真を見つめてしまった。
このように恵まれた生活の中、何が好みででMのバイトなどに入っていたのか。
そして、なぜ俺と不倫など始めたのか。
「寂しかったのよ」とぽつりと彼女は漏らした。
自分を無くして、子供達のためだけに生きてきた。
子供達は健やかに育ち、一応育て上げへの準備が整ってきたとき、彼女は失われた20代を思い起こしたのだろう。
今になって彼女の気持ちがわかる。
が、当時は分からなかった。
彼女の感情の振幅の大きさに、俺は当惑していた。
突然べたべたと甘えてきたり、俺に冷たくなったりする彼女。
彼女を抱いているときは、彼女は従順だった。
彼女には体臭が余りなく、清らかな感じだった。
俺はマスターベーションをいつの間にかしなくなった。
我慢していれば、彼女を抱ける。
そんな思いがあった。
だから、抱くとなると一度に3発など、若かったな、と思う。
彼女はご主人に抱かれるのを好まなかったという。
それが俺には信じられなかったのだが、あの男前だ。
浮気も相当だったのだろう。
俺との関係も、ご主人に対する復讐みたいな意味合いがあったのかもしれない。
が、いつの間にか、彼女は本気になり始めた。
言葉の愛撫を彼女は好んだ。
これは、毎回そうだった。
愛の言葉を聞きたがり、それを聞くたび濡れていった。
俺は、時に冗談で聞いた。
「ご主人と別れる?俺と一緒になる?」すると彼女は必ず左右に首を振った。
「そう、所詮俺は君にとって若い燕なんだよね」彼女は申し訳なさそうに俺の髪をなでた。
が、後半になると、同じ質問をしても返事をしなくなった。
黙って俺の目をじっと見つめたり、視線をそらせたりした。
ノートの件があったのは、その頃だ。
彼女の心は揺れていたのだと思う。
最初は遊びだったのだろうが。
そこで俺が彼女の心に応えてあげたら、どうなっただろうか。
が、俺は一歩引いた。
泥沼に引き込まれるような何か恐ろしいものを感じ、鳥肌が立つことがあった。
俺の生活で、Mはごく一部でしかなかった。
彼女の存在も、俺にとって都合の良い関係でしかなかった。
時に一緒に時間を過ごす。
そして、セックスする。
彼女は若い男とデートできるし、俺も性欲を満足することができた。
俺のメインの生活基盤は大学で、部活もやっていたので非常に忙しかった。
3年になると、司法試験を受けることができる。
俺の友達は、司法試験目指して目の色を変えている人間が多かった。
俺も、受験を考えていた。
受からなくても、勉強すれば成績は上がるし、成績が上がれば、良い職場に就職すると事ができる。
俺は部活を止め、町道場で剣術を学び始めた。
古流を教える道場で、古流は型を学び反復して身に付ける。
時間があれば、自主稽古できるので、受験生の俺には都合が良かった。
剣術の道場では、俺は真面目な修行者だった。
友達は作ったが、雑談を交わすぐらいでほとんど稽古終了後は帰宅し、机にかじりついた。
稽古も、勉強につかれたときに素振りをしたり、型の練習をしたりで時には汗だくだくになるまで反覆をしたりした。
道場には司法試験の受験生が数名いた。
彼らは卒業後、研究室に所属し、試験には毎年落ち続けていた。
俺はああはなりたくなかった。
が、T大をはじめとする一流大卒が落ち続けているのを見ると、俺は自分に自信がなくなった。
道場に、可愛い子が入門してきた。
俺は、初心者クラスの指導も行っていたので(当時は)、彼女とはしばしば話をした。
彼女は親しげに俺に指導を求めてくる。
俺は、できるかぎり彼女に教える。
それこそ手取り足取りだ。
足構えを直すには、太ももに手を触れ、構えを直すには手を取る必要がある。
俺はいつしか、稽古の帰りに彼女と並んで駅まで歩くことが多くなった。
会話は楽しかった。
Mでは俺は浮いていた。
余りバイトに入らなかったから。
俺がトレーナーでしごいた人間が、いつの間にかMが全ての人間になり、MGRの卵になっていった。
ということは、俺より上になっていったのだ。
自然、面白くなくなる。
道場では、Mちゃん(彼女の名)は俺を尊敬の目で見てくれていた。
といっても、一年早く入門しただけの先輩だったのだが。
Mちゃんは、幼児教育学科に所属し、幼稚園の先生になるのが夢といっていた。
いつしか俺はMちゃんとも仲良くなっていった。
俺は、Mちゃんの単なる先輩であった。
Sさんが俺の女性関係のメインだった。
が、俺には段々煩わしく、時には恐ろしい人間関係になりつつあった。
俺は、ある日Mちゃんを誘って、飲みに行った。
といっても、金のない俺は居酒屋に誘うくらいしかできなかった。
「T」という、行きつけの居酒屋があった。
そこで、彼女をしたたかに飲ませた。
余り呑めないと言っていた彼女が「わたしを酔わせたいの?」と聞いてグラスを口に運んだ。
「ああ、酔ったら家まで連れて行ってあげるよ」その時は俺には下心はなかった。
本気でそう思っていた。
遅くまで飲んで、彼女を電車で送った。
車中、彼女は俺の腕にしっかりとしがみついていた。
胸の弾力が俺の肘に押し当てられる。
俺もしたたかに酔っていた。
彼女の自宅がある駅についた。
さびれた駅で、かなり暗い。
夜11時を過ぎていた。
俺は終電車の時間を確認した。
後30分ほどだ。
俺は、計算をしていた。
彼女を自宅まで歩いて送ってゆくことにした。
暗い道だ。
ゆっくり歩いた。
彼女は俺に寄り添ってくる。
俺は意識して、暗がりを歩いた。
周りに人はいない。
住宅街だ。
突然、俺は彼女の型に手を回し、首をこちらにひねって、口づけをした。
彼女は嫌がらなかった。
一瞬のことだった。
そこからどうしたのだろうか、俺達は林の中の道を歩いていた。
周りには誰もいない。
「今の僕を、何と言うのでしょう?」「ふふ、送り狼」「嫌かい?」「ううん、ちっとも」俺は彼女を抱きしめ、胸といい、お尻といい、彼女をなで回した。
彼女は逃げなかった。
俺に体重をもたれかけた。
パサ、と音がした。
彼女のバックが、草の上に落ちた。
時間を確認すると、終電車の時刻は過ぎていた。
「終電車が、行っちゃった」俺が言う。
彼女は「エ、そう、ごめんなさい、どうしよう」俺は、「どこか泊るとこない?」と聞いた。
彼女は「分かんないよ、私そんな事に詳しくないもの」「じゃあ、ラブホテルとかあるかな、そこで泊ってもいいかな」「なら、一件知ってる」彼女に案内してもらい、けばけばしいラブホテルの門をくぐる。
俺は彼女に「一人で入るのは変だから、一緒に入ってくれない?直に帰っていいからさ」「うん・・・・・」彼女は躊躇したが一緒に入ってくれた。
けばけばしいラブホテルは、室内もけばけばしかった。
俺はソファに彼女を座らせた。
「すこしなら、ゆっくりできるかな?」水を彼女に飲ませた。
俺も、同じコップで水を飲む。
「フー、酔ってしまったね」彼女は無言だった。
俺は彼女の隣に座り、髪をなぜ始めた。
柔らかく、耳の後ろをなぞったり、うなじをなぞったり、愛撫した。
道場でいつも真剣に俺を見つめ、指導を受けていた彼女の目が、真っ直ぐ前を見て、身体は固まっている。
つぶらな瞳だった。
ショートヘアで、丸顔。
どちらかというと肉付きが良くて、俺の好みだった。
身長は156センチ。
余り素質はなかったが、俺は丁寧に教えていた。
Mちゃんは、道場のほかの数名からも好かれていた。
笑顔が可愛い子だった。
俺も彼女を可愛がっていたのだが、妹のような感じだった。
実は俺もその時大分酔っており、こんな状況になるのは予想していなかった。
躊躇する気持ちもあったが、彼女の胸のボタンを外し始めても抵抗されなかったことで、理性のたがが外れてしまった。
彼女は鳩胸だった。
外見ほど乳房にボリュームはなかった。
ブラの中に手を入れた。
固い乳房だった。
彼女は、「キャ・・・」と言いつつも首をすくめ、逆に胸を張り出すように背を反らせた。
上着を着せたまま、ブラを外した。
スカートをはかせたまま、太ももをなで回し、パンティの中に手を入れた。
Sさんほどではないが、濡れていた。
パンティにしみができていた。
俺は彼女を抱きしめ、あちこちを触りまくった。
彼女はもだえながら「何もしないって、言ったじゃない・・・」と俺に訴えた。
俺は確かに、そういった。
俺の動きが止まった。
「ごめん、そんなつもりじゃなかったんだ」俺は謝った。
今から思うと、何というばか正直。
彼女は、俺の手から逃れて、ふー、とため息をついた。
乱れた服を直すでもない。
最初、俺を彼女は見ようとしなかった。
が、少しして視線が合った。
俺は軽くほほ笑んだ、彼女はにっこりして、視線をそらせた。
合意の合図と俺は取った。
彼女を抱き上げ、ベッドに運んだ。
彼女は抵抗しなかった。
Mちゃんは、抵抗しなかった。
ベッドに横たわり、服を脱がされるままになっていた。
遂に彼女を全裸にした後、俺も裸になった。
彼女は横を向いて、身体は上を向いていた。
俺の二人目の女性。
Sさんとの違いに目を見張った。
Mちゃんは19歳。
身体は、Sさんに比べ固かった。
Sさんは実に柔らかく、ただ今にして思えば、身体の衰えから来る柔らかさだったと思う。
それに比して彼女の皮膚は、触れると弾き返されるような弾力があり、驚かされた。
体臭は少々きつかった。
ほとんど匂いのないSさんに比し、わきの下などツンと来る匂いがあった。
俺も大分酔っていたのだろう。
そのあたりの経過はよく覚えていない。
俺が触っても、なでても、彼女は歯を食いしばってじっとしていた。
言葉をかけても反応しない。
ただ息遣いがあらかった。
彼女の秘所に指を伸ばしてびっくりした。
濡れてはいるのだが、入り口に何やらある。
こりこりしているというか、変な感じだった。
Sさんには無い感じ。
それが何だか分からなかった。
愛撫を続けたが、女性の身体は人によって随分違うものだと思わされた。
乳首にせよ、Sさんと彼女では大分違う。
彼女の乳首は触れると一瞬にして堅くなり、ツンと立った。
俺は乳首を吸い、ディープキスをする。
彼女はされるがままだった。
遂に俺は彼女の両足を抱え込み、秘所に亀頭をあてがった。
両足を抱え込んだのは、彼女が両足を開こうとしなかったからだ。
ツンと、亀頭を彼女にいれた。
彼女は「痛い!」といって、身体を反らせた。
俺は、「落ち着いて、落ち着いて」と伝えながら、彼女をなで回し、彼女の尻が布団に着いたら再び少し挿入した。
すると直に「痛い!」と再び小声で叫び、腰を浮かせた。
もしかすると処女だったのだろうか。
俺達はそんな話をしたことが無かった。
当然、処女だの童貞だの話題に上らなかった。
彼女をなだめ落ち着かせ、もう一度彼女が腰を下ろしたとき、俺は一瞬に息子を彼女の中に差し込んだ。
腰が浮かないように、正常位で腰で腰を押さえるようにした。
彼女は「ハー」と大きく息を吐き、動き始めた俺をとろんとした目で見つめ、再び視線をそらせた。
処女喪失の彼女は少々痛々しかった。
抵抗はしない。
ただし、一緒に楽しむこともしない。
ただ、じっとしていた。
俺は終わることができなかった。
彼女に聞いた。
「初めてだったの?」彼女は頷いて、大粒の涙をぽろぽろこぼした。
シャワーを浴びに行った彼女は、「血が出ていたよ・・・・」と再び泣いた。
彼女は俺の胸にすがって泣いた。
愛おしかった。
が、次の瞬間、俺は彼女を俺のからだから引き離し、再びインサートした。
今度はバックからだった。
バック、彼女は完全に脱力して布団に横になっているだけだった。
俺は少々腰を持ち上げ、そのまま挿入して彼女を背中から抱きしめた。
彼女には肘を立ててもらいたかった。
そうすれば、胸を触りながらピストン運動ができる。
俺の好きな形だったが、彼女はそんな事わからない。
ただ、「イヤ、止めて、痛い、止めて、お願い」などと言葉を口にしていた。
それが言葉だけであると、俺には経験から分かった。
彼女は俺が動き続けている間中、「イヤ、止めて、お願い・・・」と言い続けていた。
本当にイヤではないことは、濡れてきているので分かった。
俺が動くたびに、ネチョネチョ音がするようになってきた。
妄想の中で自分がレイプされているようにイメージし、濡れてきているようにも思えた。
そんな彼女の言葉に、俺のイメージもレイプに近づく。
酔っていたため、なかなか発射まで行かなかったが、それでも引き金が引かれるときが近づいた。
愛おしい彼女だが、犯しているという妄想も悪くはなかった。
彼女に無理やり上体を起こさせ、彼女の肘を立たせた。
俺は後ろから彼女を抱きしめ、羽交い締めにし、後ろから胸を両手でもみしだきつつ俺は動いた。
彼女は俺に押さえつけられ、身動きができないまま目をつぶり、「イヤ・・・止めて・・・痛い」とつぶやき続けた。
遂にトリガーが引かれた。
俺は瞬時に息子を引き抜き、彼女の背に体液をぶちまけた。
いつまでも拍動が続き、自分でも驚くくらい大量の体液だった。
彼女の背にまかれた体液を、ティッシュでぬぐった。
俺の息子もぬぐったが、ティッシュは血でうっすら赤く染まった。
彼女は、虚脱状態で、ただ息荒く俺の横にいた。
「○○さん」彼女は俺を呼んだ。
涙に潤んだ目で俺を見つめ、近づいてきて俺にキスした。
可愛かった。
本当に。
もう午前零時近かった。
俺は彼女を帰してあげるつもりだった。
タクシーを呼ぼうかと思っていたが、その前に自宅に電話させた。
「もしもし、私。遅くなってごめんなさい。うん、・・・ちゃんの家にいるの。遅くなったから、泊ってゆくね」向こうで母親が何かを言おうとしているのが分かったが、彼女は電話を切った。
そして、俺にしがみついてきた。
俺は彼女の髪をなで続けた。
翌朝、もう一度俺は彼女を抱き、ホテルを後にした。
彼女は昨日までの、子供子供した雰囲気が取れており、俺はびっくりした。
一緒にレストランでモーニングを食べたが、落ち着いた雰囲気が出ており、しぐさにどことなく夫をいたわる妻のそれを漂わせていた。
Sさんがそんな雰囲気を出すと俺はゾッとしたが、Mちゃんのそんな雰囲気を俺は嬉しく思った。
俺は彼女を嫁にもらっても良いかな、とふと思った。
が、次の瞬間Sさんを思い出して、Sさんをどうしたら良いだろうと考え、途方に暮れた。
レストランの窓から朝日が入ってきて、柔らかく彼女の横顔を照らしていた。
幸福そうな、彼女。
つぶらな瞳で俺を見つめ、視線が合うとすっと視線をそらせた。
俺はわざと彼女から外に視線をそらす。
そして彼女が俺をしげしげと見つめるのを頬に感じていた。
一見幸せなひとときだったろう。
が、俺は幸福ではなかった。
Sさんのこと、これから本格的に入らねばならないだろう司法試験に心が捕らわれていた。
友人達、真剣に受験を考えている仲間達は、わき目も振らずに勉強していた。
3年になった。
まだまだ先が長いと考えている人間は、結局合格できない。
今年こそ、今年こそと勉強している人間が、数年の努力の末合格してゆく。
残酷な試験だと思う。
研究室の優秀な先輩が落ちる。
運の要素も絶対にあると思う。
かと思えば、えっと思う人が合格したりする。
今となって思うのは、人間力の試験でもあったということだ。
俺の周りで合格したのは、頭の善し悪しもあったろうが、それよりも真っ直ぐに目標を見つめ勤め励むことができたかどうかであると思う。
俺より頭が悪いと俺が思っていた人間が、合格した。
悔しいが、彼は精神的にほれぼれするような男振りであった。
俺は、あっちこっちにぶれる生活だった。
Mでバイトを行う。
古武道の道場に通う。
それだけならばよい。
SさんとMちゃんがいる。
お互いがお互いを知らない。
俺はそんな事、話していない。
バイトは極力減らした。
が、辞めなかった。
道場は月謝さえ払えば、ずっと休んでも構わない。
が、おれは週に二回は出かけた。
Mちゃんがいるからだ。
道場からの帰り、俺は自転車。
彼女は電車。
彼女を駅まで送ってゆく。
2人きりになれることは滅多に無い。
何人かの道場生で話しながら帰ってゆくのだ。
Mちゃんは控えめな子だった。
練習熱心で、優しかった。
俺に熱い視線を投げ掛けることがあったが、他の道場生ともにこやかに話をしていた。
俺にはそんな彼女が好ましく、まぶしかった。
Sさんからは、しばしば電話があった。
Mでの出来事など、とりとめもないことを話してくる。
聞いてもらいたいだけなのだろう。
が、俺にはいまいましかった。
勉強時間が取られるから。
だが、それは口実だったかもしれない。
Sさんと余り話したくなかったのだ。
ならばMを辞めればよいのだが、そうはしなかったことに俺のずるさがある。
今から思い起こしても、自分の余りの能天気振りに地団駄踏む思いがする。
俺は、最善の道をとるならば、Sさんと別れて、Mちゃんを大切にしながら受験に全力を傾けるべきではなかったか。
仮に合格できなくても、合格できても、全力を尽くした充実感があったろうし、良い意味での別の人生が開けていただろう。
Sさんと別れなかったのは、Sさんが綺麗だったからだ。
男子クルーが、Sさんの話をするのを、俺はしばしば聞いた。
「あの胸に顔を埋めてみたい」「そうだよな、色気あるよな」等々俺がSさんを自由にしていることを皆知らない。
Sさんの乱れた姿、身体の隅々を俺は知っている。
云々。
そこには愚かな優越感があった。
俺は浅はかだった。
恋愛をして、同時に不倫をして、日本一難しい試験に合格しようなど、できないことは少し考えれば分かることだ。
自分の自由になる肉体、そんなものはない。
自由にしたならば、必ず何か見返りが出て行くことは、今になって分かる。
上手にやっている人間もいると思うが、それでも精神の迫力は薄まり、消えてゆく。
これは恐ろしいことだと、今は分かる。
模擬試験の成績は、波が激しかった。
どん底に落ちてみたり、合格圏をクリアしてみたり。
これは勉強不足に原因がある。
知識が体系化されていないため、当たり外れが激しいのだ。
そこを先輩に指摘されながら、俺は何とか机にかじりついた。
Mちゃんは俺の状況を理解してくれており、時々手紙をくれるだけだった。
語り合う時間も惜しいだろうから、ということだ。
優しい子だった。
合格を祈っていると、手紙の最後にいつも結んであった。
Sさんは、そうでなかった。
電話をかけてくる。
会いたいという。
うるさいので、受験一月前に一度会った。
しばらくとりとめもない話をして、その後ホテルに入った。
俺はバイトに入っておらず、金がないので、ホテル代は彼女に払ってもらった。
ホテルでは、おれはSさんに襲いかかった。
もちろん、丁寧に優しく扱ったが、心の中では彼女に襲いかかりレイプするイメージだった。
「勝手なことばかり言って、俺の状況を全く分かってないじゃないか。今俺は大切な時期なんだ・・・」と心の中では思いつつ。
Sさんは、「会いたかったの、抱いて欲しかったの」と言いつつ、俺の頭をうめき声を上げながら抱きしめた。
俺は彼女を犯すようにして、3回射精した。
3回目には激しい疲労感が俺を襲い、腹の辺りがむかむかした。
「私を愛してる?」「ああ」「本当に?」俺は頷いたが、内心の嫌悪感を押さえるのに苦労した。
受験が近づいた。
俺は一日10時間以上勉強した。
が、実質はそれほどでもなかった。
頭に、別のことがいつもあったからだ。
Mちゃんのこと、Sさんとの関係が泥沼になりそうな気配を感じること。
夢中になって勉強してるときは良いが、ふと我に返ると、いつの間にかそんな事を考えていた。
受験が済んだ。
合格発表まで、時間がある。
きちんとしている受験生は、ここで手を抜かない。
が、俺はMちゃんとデートしたりし始めた。
つくづく自分を馬鹿だと思う。
久し振りのデートに、彼女は嬉しそうだった。
俺も、彼女と道場で会うだけでは物足りなかったし、彼女と一緒にいられると思うと、わくわくした。
俺達は原宿に行った。
そして、代々木公園や明治神宮を散歩しながら、色々話をした。
俺達のことを、彼女と仲の良い女子道場生はもう知っているという。
俺は別に不快ではなかった。
これからは、もっと堂々と恋人同士という感じで歩けるな、と思った。
並んで歩くだけで、どうしてこんなに幸福になれるのだろうか、充実した時間なのだろうか。
色々なお店を冷やかしながら、時には小さな買い物をしながら、彼女は嬉しそうだった。
そんな彼女を見ているだけで、俺も嬉しかった。
短答式試験が終わったという解放感もあっただろう。
いつしか彼女と俺は腕を組み、彼女の胸の感触を肘に楽しみながら、歩いていた。
彼女も、胸を俺の肘に押し付けてきた。
ふとしたことで、肘をぎゅっと胸に押し付ける。
もう少し密着して歩きたかったが、そうすると歩けなくなる。
夕食は渋谷だった。
渋谷まで歩いてきていた。
俺の初体験の場所だ。
Sさんと歩いて、ある程度勝手の分かっているところは、ここしかなかった。
夕食を済ませ、軽くお酒を飲んで、俺は彼女と歩き始めた。
それまでのたわいもない話が途切れがちになり、彼女の目は真剣になった。
ホテル街に入ったのだ。
彼女の腕に力が入った。
見ると一件の小奇麗な門のホテルがあった。
俺は、彼女の髪をなで、「入ろうか?」とささやいた。
彼女は、黙っていた。
俺がホテルの門をくぐると、彼女は俺の腕を放し、門の外に立っている。
「どうしたの、おいで」と声をかけると、彼女は俺の腕をむんずと掴んで、外に連れ出した。
そして、黙って速足に歩き始めた。
俺は引きずられるように付いて行った。
俺は、このまま駅に向かって歩いていっても良いと思った。
が、彼女は別方向に歩いていた。
彼女はふと、立ち止まった。
少々息が荒い。
少し先に別のホテルの門があった。
腕を組んだまま、俺は彼女の腰に手を伸ばし、彼女の身体を俺の身体の側面に柔らかく固定した。
歩きつつ、ホテルの門の前を通った。
彼女の目を俺は見たが、硬い表情で、一瞬俺の目を見て、また視線をそらせた。
俺は優しく方向をホテルの門に向けた。
彼女は身体を固くし、逆らう様子を見せたが、俺の意志が固いのを見てか、もう逆らおうとしなかった。
初夜の時よりも、彼女は遥かに緊張していた。
部屋に入り、彼女にシャワーを浴びるように伝えた。
俺は彼女が愛おしかった。
ホテルの中なのに、俺の息子は余り元気がなかった。
息子は正直で、彼女を単なる性欲の対象として見ていないのだ。
俺は自分のこんな反応が、驚きであった。
彼女を抱かずに帰っても良いかな、と俺は思った。
彼女はバスからなかなか出てこなかった。
そこで俺は裸になり、バスに入った。
Mちゃんはバスの中に浸かって背中を向けていた。
俺は彼女に近づき、背中に優しくお湯をかけてあげた。
彼女は俺に背中を向けながら、しくしく泣いていた。
「どうしたの、哀しいの?」彼女は顔を左右に振った。
「恥ずかしいよう・・・・」蚊の鳴くような声だった。
俺は彼女の顎に手をかけて、顔をあげさせた。
涙で頬が濡れている。
俺は、彼女に優しく口づけした。
長い長いキスだった。
キスの後、2人は見つめあった。
彼女は涙に潤んだ目でぎごちなくほほ笑んだ。
彼女を先にバスから出して、俺は入念にシャワーを浴びた。
俺がバスから上がると、彼女はベッドに一人横になっていた。
下を向いて、眠るでなく、俺を見つめるでなく、半眼で横になっていた。
布団をはぐと、彼女は浴衣を着ていた。
パンティーも、ブラも付けていた。
俺が彼女を愛撫する。
浴衣をたくし上げ、パンティを見ると、あそこにしみができていた。
太ももからお尻に向けて愛撫を繰り返す、小さなしみははっきりと濡れに変わってゆく。
身体を起こし、上を向かせる。
ブラを外し、浴衣の前を開き、パンティを脱がせた。
彼女は今にも泣きそうに見えた。
唇が震えつつ、ヘの字になっている。
彼女の肉体を眺め、俺は触り始めた。
張りのある肌。
鳩胸なので、乳房はそれほど大きくない。
彼女の乳房を優しく触り、乳首をつまむ。
もう一方の乳首は口に含み、舌で押し付けるようにしてなめ回した。
彼女にとって前回は、酒の勢いがあったのだろう。
今回は酒が入ってはいたが、ごく少量だった。
「私は禁酒しようと思うの」と彼女は言っていたのだが、無理に少々飲ませてしまったのだが。
うっすら汗をかいた彼女の肌を俺はなで回し、舐めた。
そして、彼女自身に手を伸ばした。
前回は、酔いも入っており、形状などはっきりと意識せずにインサートしてしまったが、今回はじっくりと触ってみた。
Sさんのそれと比べる。
随分個人個人で違うものだと思った。
Sさんは毛が薄く、クリトリスも小さかった。
入り口も肛門寄りだったが、Mちゃんはクリトリスが大きく、小陰唇も小さかった。
なぜ小さいのかと不思議だった。
それは、彼女がいわゆる上付きだったからだろう。
俺は彼女のあそこをじっくり眺めたわけじゃない。
あの時代にはAVなど無かったし、その意味でテクニックを学ぶことが難しかった。
俺はSさんから教えてもらったものしかない。
Sさんの反応を見ながら、みようみまねで学んでゆくしかなかった。
Sさんは俺自身を舐めたり、自分のものを舐めてもらうなど好まなかった。
俺も当然そんなものだろうと思っていた。
あそこの形状について書き込めるのは、ほとんど全て指で感じたことだけだ。
Mちゃんは、息を荒く弾ませていた。
胸が大きく波打っている。
俺が彼女のあそこに指を伸ばしたとき、彼女は両足をぴったりとくっつけた。
「恥ずかしいの?」俺が聞くと、彼女はこっくりと頷く。
「大丈夫だから、力を抜いてごらん」俺は優しく誘導した。
彼女はおずおずと力を抜くが、抜ききれない。
「イヤなの?」彼女はかぶりを振る。
が、なかなか力が抜けない。
無理強いすることもできない。
そっと両足を広げようとしても、力が入ってしまうので、片足だけをゆっくりと外側に広げた。
「愛しているよ」と俺が言うと、彼女は無言で俺を見つめる。
つぶらな目には涙が溜まっていた。
片足も一定角度以上には開かない。
それ以上だと力が入る。
ちょっと無理な体勢かな、と思った。
俺はそれでも彼女に身体を重ねた。
それからSさんと同じあたりに息子自身を押し付けたが、無い。
下にずらすと、肛門になってしまう。
「変だな」と思ったが、今度はずっと亀頭を上げてみた。
すると、予想よりずっと上の方で俺自身が彼女の中に滑り込んだ。
彼女の足は片足が伸び切り、もう片足がかすかに開いている。
それでもインサートできた。
俺がゆっくり動くと、彼女は「はー」と息を吐いた。
俺がゆっくり動くたびに、彼女の身体のこわばりはほぐれていった。
足もきれいに左右に開いた。
彼女は感じるまでには至らない。
充分濡れてはいるけれど、息を弾ませてはいるけれど、それだけだった。
「痛む?」ときくと、かすかに「うん」と言う。
俺は彼女をいたわりつつ動き、発射した。
膣外射精だった。
俺は彼女のお腹の精液をぬぐい、彼女のあそこもティッシュでぬぐった。
彼女は俺にしがみついてから唇を近づけてきて、俺の唇に押し当てた。
ほてった彼女の肌が暖かく心地よく、俺は彼女を愛おしく思った。
この頃の毎日の生活は、単調だった。
月曜から金曜まで、大学に行き授業の無いときは研究室に入り浸る。
とにかく一瞬一瞬が大切だった。
短答式の結果は出ていなかったが、論文の勉強を始めねばならなかった。
民事訴訟法、財政学、破産法など、学ぶべき事柄は山程あった。
土曜日曜はMにバイトに入った。
俺はオープニングのトレーナーだったので、朝6時半には店に入り、オープニングに合わせるために秒単位の仕事にとりかかる。
手順がきちんと行くと、一秒の無駄もなく幾つかの作業を同時並行して進めることができ、それでなければオープンには間に合わない。
8時間目一杯仕事をした後、道場に向かう。
道場で3時間の稽古を行い、その頃には肉体的にくたくたになっている。
俺の心中では、Mちゃんがメインで、Sさんはただの都合の良い女性に過ぎなかった。
Sさんとはバイトで出会うが、話を交わすのはクルーのいる中だったので、ありきたりの事柄だけだった。
平日は俺が忙しくしていることをSさんも分かっていたので、無茶は言ってこなかった。
ただ、電話は結構かかってきていた。
俺がつめたくなったと思っているようで、そんな不安感を訴えてきたこともあった。
俺は、そんな事はないと丁寧に伝えたが、心中どきりとさせられた。
短答式の結果が出た。
俺は駄目だった。
研究室では何人も合格していた。
とりわけ、俺の友人が合格していたことが俺にはショックだった。
彼は、余り頭が良いとは俺には思えなかった。
が、熱心に勉強していた。
視線が真っ直ぐで、俺にはまぶしく思えることのある友人だった。
彼はその年は論文で落ちたが、一年浪人して合格し、今は裁判官をしている。
Sさんが残念会をしようと、食事に招待してくれた。
彼女の自宅である。
俺は気が進まなかったが、無理やりといった感じで呼ばれていった。
ご主人はいなかったが、子供達がいた。
37歳の、独身と言っても不思議の無い彼女に、17歳の堂々たる兄妹がいるとは、信じられなかった。
特に妹は、Sさん似の丸顔で、整った顔立ちだった。
洒落っ気はないが、もてるだろうと思った。
実際蒼らしい。
話の中で、受験の話になった。
2人とも優秀で、兄などは俺の高校時代よりずっとできるだろう。
話は随分盛り上がり、細かい受験のノウハウにまで話が行った。
話のついでのように「Hさんに家庭教師をしていただいたらどお?」Sさんが2人に聞く。
2人はまんざらでもなさそうだったが、俺は断った。
受験生にそんな余裕はない。
Sさんは「そう、残念ね」と、俺を軽くにらみつけた。
お宅をおいとました後、夜風に当たりながら軽くワインの酔いが回った頭で考えた。
その時ピンと来たのが、Sさんの意図だった。
我ながら鈍いと思う。
家庭教師になれば、いつでも家に行けるし、その気になれば・・・・ということだろう。
俺にとっても都合の良い話ではあったろうが、俺は再びぞっとした。
Mちゃんのためにも、早くSさんと手を切らねばならないと、その時思った。
俺は、バイトを辞めることにした。
マネージャーにその旨伝え、クルー仲間にも挨拶した。
辞めるとなったらあっさりしたものだ。
休憩室を後にして、もうここに来ることはあるまいと思った。
その夜、Sさんから電話があった。
怒ったような声だった。
実際、彼女は怒っていたのだ。
「Mを辞めたのね」「うん、そう」「何故、ひとことも相談してくれなかったの?」「ごめんね、反対されると思ったし、勉強が忙しいんだ」「もう、余り会えなくなるじゃないの!」「電話で話せるじゃないか。いつでも会えるさ」「電話だけじゃ、寂しいわ」「僕も我慢しているのだから、Sさんも我慢してくれないかな」等々会話が続く。
文字にすると大した事無いが、語気は荒く、ほとんど喧嘩腰だった。
「今度アパートに行くわ、電話だけじゃ、話にならないから」「ちょっと待って、僕が忙しいのは、分かっているだろう?アパートには夜にならないと帰らないよ」「別に、かまいやしないわ」困るのは俺なんだけども、と思いつつも・・・・「ご主人や、子供達にはどうするの?」「あなたには関係ないでしょ」ガチャン。
俺は、研究室が閉まるギリギリまで粘っていた。
自宅やアパートでは、上手く勉強できないのだ。
アパートに帰るのは、夜9時過ぎが普通だった。
真っ暗な道をとぼとぼと歩いてアパートに向かう。
寂しげな感じがするが、俺はこういうの嫌いではなかった。
ただ、今回は流石に気が重かった。
アパートの前にSさんがいるのではないか、などと考えてしまう。
数日後、俺はアパートで民事訴訟法の勉強をしていた。
忘れもしない、三ヶ月章著の基本書を読んでいたところだった。
三ヶ月先生のこの本は、僕が一番好きな基本書だった。
行間に熱気がこもっている。
夜の10時過ぎだった。
ドアがノックされた。
俺は弟だと思ってドアを開けた。
弟は獣医学部に今年から入学し、時々アパートを訪ねてきていたからだ。
立っていたのはSさんだった。
「やあ」と俺は彼女を招き入れた。
俺の顔は少々こわばっていたかもしれない。
彼女はツンとした雰囲気で部屋に入ってきた。
それから机の上の本や資料を見つめ、「お勉強?」「見れば分かるだろう、そうだよ」「お邪魔かしら・・・」邪魔だよと言いたいがぐっと堪えて、俺は、「紅茶でも入れようか」いつもは手伝ってくれるのだが、俺の姿を冷ややかに見ている。
紅茶を入れ、有り合わせのクッキーなどを皿に入れ、テーブルに置いた。
本や資料を崩さないように移動させ、彼女と向かい合っておれは座った。
「ご主人や子供達は?」「知らないわ、あなたには関係ないでしょ」最初から戦闘モードであるのに、俺は理不尽さを感じていた。
何故Mを辞めただけでこれだけ不機嫌になられなければならないのか。
別れ話は未だおくびにも出していないのに・・・この状態で、別れ話を切り出すことはできない。
何が起こるか分からない。
まず、俺はSさんを落ち着かせるために、じっくり話を聞くことにした。
俺が感情的になってはいけない。
彼女は、ぷんぷんしながらも、紅茶に口をつけた。
俺のとっておきのアップルティーだった。
とても香りが良い。
既に夜10時を回っている。
主婦がこんな時間に、男のアパートにいるなんてどうしても不自然だ。
俺はご主人とは面識が無いが、子供達とは一飯の義理というか、親しみがある。
一体どうするつもりなのだろうか。
「私が嫌いになったのね」としばらくして切り出す。
いきなり結論モードだ。
「一体どうしたのさ。ご主人や子供達は、どうしたの?」「あなたには関係ないと言っているでしょう!それより質問に答えてよ」「・・・嫌いになったわけじゃないさ。ただ、忙しいし、俺は疲れているんだよ」我ながら優柔不断だと思う。
しばらく押し問答が続く。
彼女の思い込みは強く、それは恐らく女性の直感力だ。
そしてそれは事実でもあるのだが、俺はこの場を上手く丸め込みたいと思ってしまった。
結論は出ているのだが、修羅場の先送りをしたわけだ。
今になって分かることがある。
Sさんは、3人姉妹の末っ子で、両親から溺愛されて育ったらしい。
実家はそれなりの家庭であった。
意のままにならないことがあると、ヘソを曲げる傾向がある末っ子だ。
要領は良いが、波風に弱い。
俺は5人の子持ちなので、子育ての過程で気付いたことだ。
実例はイヤというほどある。
また、仕事や勉強時のの聡明さや忍耐力は、必ずしも人生でのそれには結びつかない。
要は、ちやほやされて育ち、仕事でもそれなりに評価されているわがまま娘が、意のままにならない相手に腹を立てたというだけのことだ。
ただそれは今になって分かることで、その時は彼女の反応の不思議さとどぎまぎで、俺も普通ではいられなかった。
「黙ってMを辞めたのは悪かったよ。そう怒らないで」本当は、何故怒るのかと聞きたかったのだが、火に油を注ぎそうなので止めておいた。
やがて話はとんでもない方向へ飛んでゆく。
「あなたはいつも、私のことを愛しているって言ってくれたじゃない」それはそうだ、セックスの時、彼女は言葉の愛撫を好んだし、「愛している」と言ってくれと、何度も俺にせがんだのは彼女の方だ。
「言ったよ」「それは嘘だったの?」「・・・いや、本当にそう思っていた」「だったら何故、もっと一緒にいてくれないの?」おいおい・・・・彼女の眼差しは真剣そのものだった。
「ねえ、俺は学生だよ。しかも受験生だ。海のものとも山のものとも分からない、若造だよ。Sさんを好きでも、幸せにしたりすることもできないし、申し訳ないよ」「そんな事、気にしなくても良いの。私が面倒を見てあげるから。」俺の背筋に悪寒が走った。
「私、あなたの愛に応えなくっちゃいけないかなと、この頃思うようになっていたの。」俺は絶句した。
「ご主人は、子供達はどうするの。○○君、○○ちゃんが悲しむよ。ねえ、一体どうしたんだい。家庭を壊したくないといっていたのはSさんの方じゃないか」彼女は返事をしなかった。
都合よく肉体だけを楽しめる女性だと俺が勝手に思っていたSさんだったが、そうではなかったことがはっきりした。
抱くというのは肉体のことだけにとどまらず、精神も一緒に抱くということなのだと骨身に染みて分かった。
因に、この時の経験がもとで、俺は結婚してから18年間、浮気は一度もしていない。
相手にするとしたら、プロと心に決めている。
俺は冷たい汗をかいていた。
運動の心地よい汗しか知らなかった俺は、冷や汗というものが本当にあることを知った。
混乱していた俺だが、ここでの対応を間違えると、俺は人生を過つということだけは分かった。
Mちゃんをどうしようか。
Sさんは真剣だ。
「そこまで思っていてくれて、ありがとう」俺の精一杯の演技だ。
俺の目の前に、Sさんの肉体がある。
豊かに盛り上がった胸。
細い腰。
先日まで、俺が自由にできていた身体だ。
小振りだが整った顔つき。
目が俺を見つめている。
紅茶が冷めてしまっている。
俺は席を外し、ヤカンに水を入れ、間を取った。
落ち着け、落ち着けと俺は自分に言い聞かせた。
お湯が沸くまで時間がかかる。
今まで俺と彼女は対座して座っていたが、俺は彼女の隣に座った。
対座だと、対立関係になりがちだ。
隣に座って、お互いの体温が感じられるくらいの距離に身体を置く。
「哀しい思いをさせてしまったみたいだね。ごめんね」「知らない!!!」しばらくお互いに無言。
お湯が湧き始めた。
「私が入れるわ。」勝手知ったる調子で、紅茶のお替わりを彼女が入れてくれる。
ポットにカップ4杯分くらいの紅茶ができ上がった。
もう夜11時を過ぎていた。
が、彼女は帰ると言い出さない。
お互いに無言のひとときが続いた。
俺は、今までの経過を反芻したのだが、段々むかむかしてきた。
セックスの時の、女に誘導された男の言葉を真に受けて、愛されていると思い込んでいたなんて、何て馬鹿なんだろうか。
それとも、理屈にならない感情に流されてここまで来ているのか。
何れにせよ、ほとんど子供だ。
子供じみていると自分で分かってやっているのなら、コンチクショウである。
急に荒々しい激情が俺を襲った。
俺は彼女の腕を荒っぽく掴んだ。
彼女ははっとした目で俺を見つめる。
次の瞬間、ギラリと挑発的な視線に変わった。
俺は彼女の視線から敵意に近いものを感じ、敵意に対して敵意で答える衝動が俺のうちに沸き上がった。
俺は間髪をおかず、彼女を畳の上に押し倒した。
お互いに声は出さない。
ただ、押し倒されてバタバタと彼女は暴れていた。
動きは大きくはないが、力は今までに経験したことが無い程で、彼女は全力を出していたと思う。
俺の目は血走っていただろうか、と今では思う。
彼女は俺の両手を何とか止めようと、手を使って防いでいた。
が、所詮女の力である。
難しいのは、服を破かないようにすることだった。
彼女の両手を動かなくするために、彼女にバンザイ型を取らせて、両手首を片手で押さえた。
柔術の呼吸である。
そのまま空いている片手で服のボタンを外して行った。
暴れる彼女のボタンを外すのは、結構難しかった。
胸のボタンが外れた。
「イヤ、止めて、ヤダ」と荒い呼吸に合わせてかすかな声が聞こえる。
彼女に掴まれている痛みはほとんど無いはずだ。
痣もできないだろう。
その意味で、俺は細心の注意を払っていた。
ボタンの外れたシャツの間から、豊かな胸がのぞいている。
今まで何度も愛撫した胸だったが、このような状況で見ると、改めて興奮を誘う胸だった。
シャツの間に手を入れて、ブラの上から胸を揉んだ。
彼女は益々「ウグ、ウグ」とノドにこもった声を出しながら、暴れた。
次に俺は彼女にのし掛かり、自分の胴体で跳ね回る彼女の身体を押さえつけた。
上手くいった。
次に俺は片足を彼女の股の間に差し込んで、足を広げさせた。
さらさらした生地のスカートだった。
俺はさっとスカートをまくり上げ、ストッキングに手をかけた。
手がかかった瞬間に、俺はストッキングを引き下ろした。
これも柔術の技をかけるときの呼吸だ。
敵がはっとして防御体制をとる一瞬前に、技をかけてしまう。
ストッキングを全部一度に引き下ろすことはできない。
尻の部分をむき出しにしただけだった。
が、ここが外れては彼女は元に戻せない。
彼女の両手は俺が利かなくさせていたからだ。
ここから俺はバタバタする足から、じわじわとストッキングを脱がせていった。
俺も片手なので、膝近くまでしか脱がせられない。
俺はそこで体を一瞬入れ替えて彼女に馬乗りになり、両手でパンティーごとストッキングをはぎ取った。
彼女は一瞬両手が自由になったが、なす術もなかった。
バタバタと俺の背中を叩いただけだった。
痛くも何ともない。
俺は一瞬だったがはっきり見た。
彼女のあそこがヌルヌルに濡れているのを。
俺が体を外すと、彼女はスカートを下ろしてあそこを隠そうとした。
俺はズボンとパンツを脱ぎ捨て、起き上がろうとする彼女を後ろから羽交い締めにし、胸を揉んだ。
俺の両足は、彼女の腰と足に絡みつき、身動きをとれなくさせていた。
彼女が身体をエビのように前後に動かすたび、俺の手と足は彼女にしっかりと絡みつく。
「ひいっ、むぐ・・・」と彼女は荒い呼吸とともにうめき声ともつかない声を上げた。
「イヤ、イヤ、止めて」と辛うじて言いながら、抵抗するが段々抵抗は弱まっていった。
スカートをたくしあげ、素肌の彼女の下半身に足を絡み付けた。
体を入れ替え、俺の太ももが彼女の股間を押さえつける。
俺の太ももが彼女の愛液でぐっしょり濡れる。
そのまま彼女を俺の身体で押さえつけながら、俺は身体を沈めていった。
亀頭にヌルッとした感触を感じたと思ったら、あっという間に俺の息子は彼女の体内に沈み込んだ。
俺は動かずに、彼女の身体を押さえつけていた。
バタバタ暴れる動きは、止まった。
彼女は横を向いたまま、激しく呼吸していた。
俺は生意気な彼女を制圧したように思った。
彼女の表情を見つめる。
最初はきつい目だったが、段々とろんとした目に変わっていった。
俺はおもむろに動き始めた。
彼女は「あ、あ・・・」と言いながら乱れ始めた。
いつもの彼女だった。
2人とも上半身は服を着ており、下半身だけで交わっている。
その状況が、何故か刺激的だった。
彼女は「好き、好き」とうわごとのように言い始める。
「ね、出して、お願い」俺は、なるようになれと思ってしまった。
Sさんはゴムが嫌いで、俺はいつも生の外出しだった。
が、今度は彼女をむちゃくちゃにしてやりたいという衝動を、俺は抑えられなかった。
「犯してやる、懲らしめてやる」と、激しく彼女の中で動き、俺はめくるめく快感の中、彼女の体内に発射した。
初めての中出しだった。
次回に続く